column 建築エッセイ

時間が経てば経つほど価値が上がる建築Ⅰ

本当は住まいは新しいことだけが良いというものではありません。ところが現実は新築物件に人気が集中します。同じ値段なら新しい方が良いということです。古くなるほどマンションの家賃は下がり、売却価格もどんどん下がっていきます。そして下がるのは古いからだという話になるのです。
世の中には時間が経てば経つほどありがたいものがたくさんあります。ワインは熟成期間が長いことが尊ばれます。一粒のタネを植えた土地には時間が経てば花や緑が育ち人々を癒します。お坊さんの説法は新人の小僧の話よりかは、長い修行を経た長老の住職様の方がはるかにありがたいのです。住む街も真新しい新興住宅地よりかは、フィレンツェやモンマルトルのような成熟した街に憧れます。皆、時間が過ぎたこその価値です。
さて時間が経てば経つほど価値が出るマンションの話です。
これからつくるマンションつくりには歴史的な文化の息吹を吹き込みたのです。文化が育てば建築は輝きだすからです。

(写真5時間が経てば経つほど価値が上がるマンションの作り方)

上の挿絵は私が好きなマンションのあり方の1つを完成予想図にしてことあるごとに提案しています。まだ受注はありません。
挿絵をご覧になりながら、このマンションのオーナーになったつもりの私の独り言を聞いてください。
時間が経てば経つほど価値が出るマンションのイメージが伝われば良いと思うのですが・・・・・・・。

南側の煉瓦敷の通路の傍の竣工の時に植えた小さなオリーブたちは
やがて夏の日差しに木陰をつくるほどに大きくなっていく。
もっと大きくなったらこの樹の下でチークの椅子に寝そべりながら
コーヒーを飲むことが私の楽しみとなる。
音楽家を目指す若者はその横の小さな広場で今日もバイオリンの練習をする。

建物の外観の統一感は大切ですが、住人である新進気鋭の画家が
たとえ勝手にベランダを真っ赤に塗ったとしても、
それが芸術というのなら彼の将来を見込んで許してあげよう。
シャイな若夫婦が階段を登る時に手をつなげるように、石畳の階段の明かりは
ほのかでロマンチックなガス灯に今度変えよう。
歳を取ったらやっぱり和風が恋しくなるのでどこかに、はなれの茶室があったらいいだろう。
定年退職した校長先生が若者に教えを伝えられるよう、
階段の途中に小さな寺子屋もつくろう。

このマンションにはいざとなったら頼りになる赤髭先生がいる。
夕焼けが見える日なら屋上に行けばいつでも会える。
サッカー選手が今度越してくるらしい。とても有名らしい。子どもたちの憧れだ。
ジョンレノンやいずみたくにもすんで欲しかったが、
・・・・・・・・・・それは仕方ないことだ。

いつのまにか、いろんな人がこのマンションに集まってきた。
政治家もいる。博士もいる。文化の始まりだ。

大変だったが、文化ができるようなマンションをつくってよかったと思う。
似たもの同士が集まって一つの環境ができていく。
幸せそうなマンションだから、人は幸せになるのだ。
元気になる。
街もあかるくなる。
ね、
少しくらい高くったってこのマンション、住みたいでしょう?