column 建築エッセイ

中古住宅にはほとんど価値がない!という思い込み

ヨーロッパの街並みには、気品を感じます。時間という昇華の力と街の誇りを感じます。私はヨーロッパを訪れる度に想うことがあります。
もしも、人生や仕事の悩みがあった時、パリやロンドンのあの街並みの中で答えを出すのと、日本の先端技術を駆使した新興住宅地の中で出した答えとはだいぶ答えが違うのではないかと。
どちらが良いとか悪いとかいうことではありませんが、「どちらが好きか?」と個人の好みの問題と片付けてもいけない気がします。
価値をつくるためには、多くの人々の手で育まれた長い年月が必要です。それが価値になっていくのです。
イギリスでは、販売される住宅の9割近くが中古住宅で、新築住宅は1割程度しかないといいます。一方私達の国、日本での新築住宅の需要は約8割を超えると聞きます。現在の日本人の価値観は、たとえパリの夕焼けの哀愁に憧れを持ったとしても、我が家だけは真新しい新品がいいのです。ただ、その一人一人の考え方の積み重ねが今後も今後の街並み、景色をつくっていくことは覚えておかなければいけません。

世代ごとに取り壊すことなくバージョンアップし続ける住宅は、建築としての価値は世代ごとに上がり続けます。

ネーミングって大切ですよね。言葉の影響は大きいものです。
「中古住宅」という言い方は時代を一括りにしていて「時」に対しての敬意がありません。
ウイスキーやワインは「時」を大事にしています。時が価値なのです。
「これは18年もののウイスキーだ」とか「〇〇年モノのワインが手に入った」などと自慢したりします。
建築も同じように
「丘の上の赤い屋根の家since1947」と言う名前で呼んだり、
「Apple A型住宅2022」という名前で呼んだり・・・・・
ネーミング一つで古い建築にも新しい建築にもそれぞれに愛着が湧いてきます。

ほら、何となく真新しい「新築の3L D K住宅」よりも70年前の「丘の上の赤い屋根の家since1947」の方が恋しく思えてきませんか?