column 建築エッセイ

建物は竣工した時から、アップデートを始める。

永遠に・・・・・というわけにはいきませんが、もう何度も触れていることですが、建築物は時間が経てば経つほど価値が上がるものです。しかし、それにはメンテナンスへの根本的な理解と実践が重要です。

床は「掃除が楽な材料で・・・・・」ということでしたら、表面に木目が印刷されたような化学処理されたシートが貼ってあるような床材がお薦めです。色もきれいです。しかし、その材料は時間が経つほど劣化していく材料です。逆に「掃除はこまめにやるので本物がいいです」と言われれば、木の温もりがあって優しさが伝わる、分厚い無垢の木の床材を薦めます。無垢の木は、古くなるほど余計に優しい表情になり、それまでの暮らしの記憶までも残してくれます。

劣化が気になるようでしたら、表面を削ればまた元の新品のようにすることができます。時にひび割れや曲がり、そりが出ることもありますがそれらは修正や補修をすることができます。

建築物の修理、不具合などのメンテナンスにお金をかけることは、損なことでも運が悪いことではありません。積極的に受け入れるべき良い投資と考えて欲しいのです。

人がつくるものにはどうしても限界があります。その時に欠点でなくとも、将来暮らし方が変わった時には使いにくくなるかもしれません。「欠点がゼロ」の建築をつくろうとすると、「たった今、欠点が無い家」というゴールをテーマに建築をすれば、その問題は解決することができます。現時点での欠点をつくらないという選択肢を選んで設計していくのです。

でも、そのゴールで良いのですか?

小学校で跳び箱の練習をしますが、失敗したら怪我をするかもしれないので「絶対に失敗しないこと」がゴールであれば簡単です。普段5段飛べる能力がある子供が挑戦するなら跳び箱の高さを1段減らして4段にすれば良いのです。「10回のうち1回や2回失敗しても良い」と思えば5段に設定します。

さらに「9回失敗してもいいじゃないか」ゴールは「昨日よりも1段高く飛ぶことだ」となれば6段の跳び箱で練習することができ、能力の開花に希望が持てるのでは無いでしょうか?

長い目で見ればどんなことにも欠点はそのうち必ず出てきます。

コンピュータのソフトは、使い始めてから想定内、想定外を含めたくさんのバグが出ます。これらを片っ端から補正していくからこそ、素晴らしいソフトに進化するのです。進化を繰り返して安全になったソフトは、そのまま使い続けていけば安定したままなのですが、そのうちまた新しい機能をつけてバージョンアップされたシリーズが発売されます。そして、またバグとの戦いが始まるのです。

このようにして欠点を許容し克服しつつ、コンピュータのソフトは凄まじく進化しています。バグの撃退を日夜研究し、ユーザーの苦情、注文を受け入れながら、IT業界もものすごい勢いで発展しているのです。

私たち建築の世界も、そういった姿勢で頑張ることができれば、そうすれば本当に価値ある建築ができるのでしょう。 竣工してオーナーが住み始めてから、もしも欠点が出てきたならば、その都度、欠点と向き合い徹底的に改善していけば良いという考え方。つまり跳び箱の高さを1段だけあげてみるというオーナーの決断と建築家の責任と覚悟。それがあれば建築はどんどんアップデートしていくのです。大切なことは今、この瞬間に欠点が少ないことではなくアップデートできる、アップデートしやすい建築こそ、価値があり本質的な建築です。