column 建築エッセイ

健康住宅だけでは「健康的な人間」にはなれない

「健康住宅」と云う言葉を聞いたことがあります。ホルムアルデヒドなどの化学物質を使わない自然志向の建築資材を使用することに加え、高断熱で省エネ機能、さらにはソーラー発電などを備えた住宅のことです。

ひととき「シックハウス症候群」なる健康被害が社会問題化したことがあり、建築の健康に与える影響が心配されました。

しかし今日では建築基準法においても、ホルムアルデヒドなどの化学物質に関しては厳しく規制されており、さらに室内空気の浄化のための24時間換気設備は、どの住宅にも設置が義務付けられています。

また建築物の断熱性能についても、最近のサッシの気密性は法的な整備も加わり、格段に向上しています。さらに省エネ建築のガイドラインも示され、省エネ法によるチェックも行われてきていますので、これから建築されるオーナーの方は、シックハウス、断熱などについてはまずは安心できそうです。

このように最近の住宅は、以前に比べるとずいぶんと機能が強化されています。さらにそのあたりをもっと追求したのが、「健康住宅」と名打った住宅といえるのでしょう。

それゆえ、そのような「健康住宅」は快適です。

しかしながら快適なのは、今この瞬間のこの場所のことなのです。これから先、より健康になっていくという健康のことではありません。なぜなら本当に健康であるためには、心にも体にも適度なストレスが必要だからです。

「快適」の限界です。

我が子には、温室育ちのよりも雑草のように逞しく育って欲しい。そう思っている親御さんも多いのではないでしょうか。

人が生きていくのには、少しは努力が必要ですよね。

前述でも取り上げた「超快適」について健康という側面からもう少し掘り下げて取り上げてみましょう。

快適性には、もとも加減が必要だと思うのです。

24時間完全に空調された快適な箱があったとしても、それが本質的に良い住宅とはいえないのです。

何年か前、私は我が家でアグレッシブな自然住宅をテーマに、「快適でない住宅」を実験的に体験したことがあります。40坪の鉄筋コンクリート造の住宅で、電気は家全体で30アンペア、室内外共にコンクリ ―ト打ちっぱなし仕上げ。断熱処理もあえてしてありません。

「コンクリート打ちっぱなし仕上げの住宅は、暑いし寒いし、と住めたものではない」とはよく聞くことです。しかし、あんな発泡スチロールのような断熱材が、そんなに効くものなのか試してみたくなったのです。今考えると建築家が考えるようなことでは決してないのですが、いや人として・・・・・・・・。コンクリート打ち放しに住む魅力も肌で実感したかったのです。人の家では絶対できないので、我が家の内装工事前にその状態でしばらく住んでみることにしました。2、3年。

室外と室中を自由に行き来できるような設計プランだったため、開放感は抜群で毎日がリゾート。特に春から夏そして秋へと移り変わるまでの風が心地よい季節の、その至福の時間、満足感を言葉で伝えることはできません。エアコンのない夏でしたが、私は夕方には庭に水を撒き、心地よい扇風機の風に当たりながら食べたスイカの味のしあわせ感しか覚えていません・・・・。

が、しかし、問題は冬でした。特に1年目、これは本当にキツかった、寒かった。

家にはストーブが全部で2台しかありません。エコを貫くためです。(ついでにテレビもやめました。どうせなら、自らの感覚を磨がこうと思ったのです。)

室の中よりも外の方が暖かかった日にはびっくりしました。

室内でも、朝起きてから寝るまでジャケット着用の毎日でしたが、同じく辛かったのは嫁の『寒すぎる!これが家なの!?』という容赦ない言葉に、ただ耐え続けた1年目の冬でした。

それでも1度だけ誉められたこともあります。

ある雪が降った日の夜に食べたうどん。相変わらず室内はとても寒く、窓ガラスは蒸気で真っ白に結露して、フーフー言いながら2人で食べた鍋焼きうどん。「こんなに美味い鍋焼きうどんを食べたのは初めてだゎ」と言われました。

皮肉で言ったに決まっていますが、案外心から漏れてしまった本音なのかなとも思っています。

そうこうしているうちにやってきた2 度目の冬。「今年もまたすごく寒い冬がくるぞ!」と準備よろしく身構えていたのですが、そんな年に限って一向に寒くはならなかったのです。

「よかった!今年はあったかい冬で助かった。」

などと話していたのですが、実はなんとその年は、去年どころか近年で一番寒い冬だったと後でニュースを見て知ることになりました。

なんと私たちは、たった1年で体が寒さに慣れてしまったのでした。

実際、みんながコートを着るくらいの寒い日?でも、私は薄い上着1枚で仕事ができる丈夫な体になり、皆から「後藤さんは寒さに二回り強いね」などと言われ、幾分得意にもなっていました。

昔の住宅はすきま風が吹きこみ、とても寒いものでした。その頃から比べると今の住宅の性能は驚くほど進化し、現在の子どもは生まれた時から大人になるまでずっと快適な家で育ちます。

そんなに快適すぎて、大丈夫でしょうか?

ジャーナリストの立花隆氏が「生きていく上で大事な能力は悪戦苦闘能力だ」と言われていたことを思い出します。どんなに便利な社会になろうとも、私たち人間は自分の器は自分でつくるしかないのです。山頭火と言うお坊さんは「まっすぐな道で淋しい」とも言っています。

「毎日が晴れだったらいいのになぁー」と完璧を思うかもしれませんが、それではどんなところも砂漠になってしまいます。わかっていても雨の日の当日はやっぱり嫌なものですが、それでもそれを適度に取り入れた、日本のような梅雨もあれば夏もあるような気候が実際は良い気候といのだと思います。

これが「超快適」の考え方なのです。

便利で快適が当たり前になった現代だからこそ、快適をゴールにすることなく、快適の1歩も2歩も3歩も上をいく「超快適」、「爽快」のある住宅をつくりましょう。

ちなみに「便利最小限」の我が家の実験住宅は3年で終了し、やっぱりもう少しだけ快適な方が良いと、その後「超快適」な家へと内装工事が行われました。もうだいぶ昔の話です。