column 建築エッセイ
「省エネ住宅第1主義」をやめてみる
2012.08.21
持続可能な社会に向けての取り組みもあり、昨今では「省エネ」が盛んに言われるようになりました。
限りある資源を有効に使う!
こんな当たり前のことがクローズアップされなければならない世の中になってきました。 私たちのこれまでの行き過ぎた暮らしは、スローガンや法律がなければもう戻ることができないのかも知れません。
もちろん、電気料金は安いに越したことはないのですが、高ければ高いで省エネは進みそうな気がします。朝、明るくなったら仕事を始め、夜、暗くなったら早めに床に就くような生活のリズムなら省エネはもっと進むのでしょう。本当の本質はそこなのですが・・・・・・・。
住宅業界では「省エネ住宅」を売りにする住宅メーカーや工務店がたくさんあります。省エネ住宅はいずれも消費電力やCO2 排出を抑え、環境にやさしく経済的なところが特徴です。高気密、高断熱、さらには太陽光発電システムなどを備えていて、「機能性に優れた住宅」といっていいでしょう。
しかしながら、機能性住宅というだけでは「良い住宅」とはいえませんでしたよね。
私が思う良い住宅とは
1 楽しい建築であり、
2 時間が経てば経つほど価値が上がる本質的な価値がある建築
3 そして、住めば人生を向上させる力のある家
のことです。これは概念です。
具体的には次の5つに集約されます。
1 安全で耐久性があること
まずはシェルターとしての機能。地震や台風が来ようとも火事になろうとも安全が約束されること。また構造的にも材料的にも耐久性があること。
しかし案外この点は、日本の建築業界全般的において進んでいます。
2 明るく、楽しい建築
例えば、段差のある家は楽しい。人はだだっ広い運動場の真ん中よりも、川のほとりや段で区切られた隅を好むものです。これからどんなにAIが流行ろうとも、生活を楽しむことは我々人間にしかできません。
「楽しくなければ建築ではない」
建築家の巨匠、フランク・ロイド・ライトは滝の上にリビングをつくりました。
「春雨じゃ濡れて参ろうぞ」さながらに、安藤忠雄は雨に濡れなければ行くことができないリビングを設計しました。了解した施主もすごい。
3 美しい建築・芸術性のある建築
美しく芸術的なものを毎日見ていると神経が研ぎ澄まされ、人は優しくおおらかになっていきます。豊かさと美は近くにあるからです。
そして美しいものは大事に使います。例えば、法隆寺ほどの価値があれば1000年以上も現役で美しくあり続けることができます。
薔薇が自らの身を守るのは棘ではなく、あの香りと美しさなのだと言った人がいます。美しさは力です。建築も美しくなければなりません。
我が家がカッコ良くなり、隣もそしてその隣も美しい建物が続くことを願うのです。
ちなみに「ただ変わったデザインの建築」と「芸術的な建築」は、好き嫌いは別としても、建築家や芸術家であればすぐに区別することができます。
4 快適性の1つ上をいく“超快適”
住宅をつくるときに最初に求められるのが快適性ですが、「超快適」とはそれをさらにもっと快適にするということではありません。
ひととき「オール電化住宅」や「スマート建築」なるものが流行りました。今でも、はやっているのかもしれませんが、これは何でもかんでも電気で快適にコントロールしようとするものです。しかもそれがエコになるとか!?
私の場合、快適をつくるのにまずは「自然の力」でその場所でできる全てを考えます。徹底的に探すのです。井戸があればその水は夏の屋根や、床の冷却水としても使えますし、屋根の形を変えることにより風の流れを変えることもできます。窓の大きさや位置・高さで室内の明るさをコントロールしたり、空気の流れを作って空調に頼りすぎないようにしています。また、エレベーターで運動不足になるような環境ではなく、階段を使いたくなるような設計を提案しています。広くて楽しい階段なら、いつでも登りたく』なるし、降りたくもなる。薪ストーブなら温まるまでの時間が待ち遠しいのです。
そうやって自然の力を使いつくしたところで最後に電気やガスで補うといく感覚です。いざという時もあります、体の調子が悪いこともあります、そんなに極端に我慢する必要もありません。
室内と外とのつながりをうまくやれば、少しくらい暑くても寒くても、窓を開けたくなるでしょう。夏の朝、冬の朝、春でも、秋でもいいんですが、朝早く起きて、窓を開けると、外の空気や風邪が部屋の中へとスワーっと入ってくる。ザワザワとした樹々の音も聞こえ始める。街の音さえ心地よい時があります。胸が広がっていく瞬間です。「あー気持ちいい」
爽快な気分。
これが「超快適」なのです。
つまり快適さにはこの「爽快さ」がないのです。
爽快さにはいろんな要素があります。
例えば山登りのように苦労して登るからこその山頂の爽快さ。
夏の朝、思いっきり窓を開けっぱなしにできる爽快さ。
窓越しに匂う春の爽快さ
やることはやったという自信に似た爽快さ
なんにもないと開き直れた時の爽快さ
どうでしょうか?私たちも時には爽快にいきたいものです。
「爽快さは最高の贅沢」です。満喫しなくては勿体無いもったいない。
そしてもう一つ、オール電化は停電になると無力です。私の設計した「超快適」の家に住む方からは、東日本大震災で電気が止まった時、「そんなに不自由はなかったよ」と感謝されました。また今日のようにどんどん電気代が上がってくると、オール電化やスマート建築は節電に大変です。私は何も災害や、電気代が上がる事に備えて「超快適」を提案したわけではないのですが、どんなことにも良い面もあれば悪い面もあり、想定外は想定外ではありません。とはいえ、長所が魅力的に感じている時は短所にはなかなか目が向かないものです。
オール電化住宅には「電気代が高くなると困る」というマイナス面がありますが、今後その他の別の欠点が、出てこないとは限りません。次の何か困ったことが出てくるのかも知れません。よくわからないのです。
ただ、いきすぎた快適や便利には違和感を感じることは確かです。
だから私は徹底的に自然の力を利用する。何かがあってもなんとか過ごせる家つくりです。その上で部分的に電気的、機械的に補う。
機能と快適の調和。これが「超快適」の考え方です。
5 建築は建築家が設計して工務店がつくる
最近は「建築家が設計をして工務店やゼネコンがつくる」ということが、一般的ではなくなってきています。ハウスメーカーの場合決められたシリーズに沿って設計をするので、建築家の設計とは違います。また工務店やゼネコンに一括して建築をお願いする場合は、建築家がその下請けとなり設計することになりますので、その際、建築家にとっての第一のお客さまは工務店ということになり、100%建主側に経つことができないことは理解してあげて欲しいのです。
建築の始まりはまずは建築家、設計事務所にご相談ください。これが希望の建築への第一歩になるはずです。