column 建築エッセイ

パース、CGは現実を伝えない

最近のプレゼンテーションの技術にはすごいものがあります。

CGを駆使したパース(完成予想図)はもう当たり前のツールとして定着しています。最近では完成予想図が立体的になり、バーチャルな完成モデルの中を実際に歩いているような VR技術も発達してきています。

しかしながら、これらのパースや動画・V Rは、数学的な処理で空間の大きさや質感を忠実に表したものではありますが、人間が感じるイメージがそのまま伝わるわけではありません。

設計上の、例えば雰囲気の方向性、の一応の確認のためには便利なツールですが、それを決定の判断材料に使うのは危険です。

写真で見た時の人の印象と実際に会った時の人の魅力が全く違ったという経験は誰もがあるのではないでしょうか?

写真だけで人を判断してはいけないとわかっていても、建築の場合はパースや動画・V Rを見れば空間を体感できるものだと勘違いしてしまうものです。「大体わかった、ここはこうした方が良い。変更しよう」とついつい判断材料に使ってしまいます。

実際の建築は何十メートルという大きなスケールで作られるものですが、パースやC Gの印刷はA3やA2のボードで出力されます。しかも大概のパースは一度に建物全体が俯瞰された状態で描かれています。人間が普段あまり見ることのない角度ですので、実際の建物を見た時に気になることとはまるで違うところが気になってしまうことがあります。

例えばビルの一部に黄色で着色されたポイントの部分があったりすると、なぜか静止した平面上のパースではそこにすぐに目がいってしまうのです。そして、オーナーからはその部分が「とても派手に見えるので落ち着いた色に変えて欲しい」と言われることもしばしばあります。

ちなみにその色をやめて欲しいと言われたときには、もちろんその色に特別な意味がなければすぐに変更します。なぜならそれは人の好みの問題だからです。人の好みを否定し続けるとオーナーとの信頼関係が薄れてしまい、もっと大きな問題に一緒に立ち向かうことができなくなってしまうからです。

昔、パースなどが一般的でなかった時代には、そのようなことにはあまり触れずに、そっと建物を完成させてしまっていたというような乱暴な時代もありました。その場合、オーナーは完成後に初めてその黄色の部分を見ることになるのですが、そのこと自体に全く気づかないか、「この色、いいね!」と満足げな表情をされるかのどちらかでした。大きな問題となることはなかったのです。

またCGは、本物の無垢の木を使ってできた空間の重厚感よりも大理石が印刷されたビニールの壁材や床材で構成された空間を描いた方が豪華に見えてしまうのも欠点です。これでは勘違いをする人がでてきても仕方ありません。人は目から入る情報にどうしても引っ張られてしまうのです。

さらに、最も重要なことは、実際の空間では前後左右の空間の印象が、次に入る空間へ余韻を残すことです。料理人がお客様に出すスープの味を、後に出てくるメイン料理に合わせて調整するのと同じように、空間には前後のつながりが重要なのです。

ピアノを弾く時、ドの音、レの音、ミの音など単独の音をどう組み合わせるかで全く曲が違ってくるように、空間で大切なのは強弱がついたリズムと自分が感じるイメージの流れです。しかしそれを伝えることはC Gや動画ではなかなか難しいのです。

結局一番大切な、迫力というか空間のオーラ面白さを伝えることがなかなかできないのですが、とはいえ図面になじみが薄い方に完成イメージを伝える確認の方法としては、今のところC Gが一番わかりやすいので、一つの説明材料として、見せ方を調整しながら、工夫しながら、我が社でも多用しています。