column 建築エッセイ

ゴールから設計する空間作りとは?

家を建てるゴール。それは「3LDKの家を3000万円でつくる」といったゴールのことではありません。

例えば、「家族皆んなで旅行に行こう」と考えている時に「3日間で20万円の旅行をしよう!」だけでは、どこに何をしに行くのかがわかりません。

箱根でゆっくり温泉に入るのか?

沖縄でマリンスポーツをやるのか?

それとも北海道で蟹料理を食べるのか?

そこが本当は問題ですよね。3日間では足りないかも知れないし、内容によっては2日でも何とかなるかもしれません。

さて、家を建てようと思った時のゴールです。「息子を絶対に総理大臣にするための家を建てたい!」でも「全然あり」です。そんなテーマをもらったら、建築家の設計魂に火がついてしまうでしょう。建築で、そこにどんな貢献ができるのだろうか?探究心が炸裂します。子どもから自ら「将来僕は博士になりたい」なんて言われた日には、家の中にケンブリッジばりの図書コーナーを設計提案しようと思うかもしれません。

人は環境がつくり上げるのです。

「いやいや、そんなことは望みません。我が家は明るく楽しく、皆んなが健康で暮らせるのが一番」というお母さんの願いのための家つくりと、子どもを博士やプロ野球選手に絶対したいための家とでは違います。

目指したいそのゴールに辿り着くまでの解決策が、建築設計の本質の一つと言えます。

この「ゴールや本質に対する考え方」は住宅以外の建築で説明したほうが伝わりやすいかもしれません。

例えば、病院やクリニックは何のためにつくるのかといえば、病気の人を治して元気にするためですよね。それなら「病院に来る人が早く病気を治して元気になるには建築として何ができるのか?を考えるのが病院・クリニック設計の本質だろうと思います。そしてもう一つの大切なことは、経営に無頓着で赤字になってしまっては人を助けることはできないということですよね。「集患」というマーケティングも病院・クリニック建築の本質としては大事です。さらに日々の医療体制を確立させるための導線や機能。その3つが本質なのです。患者目線と医療者目線と経営者目線。病院設計にはどれもが等しく重要です。

商業建築のゴールは「お金を儲けること」が第一義になるでしょう。どうやったら儲かるか?どうやったらお客さんがたくさん来るか?という課題に、建築の力で応えるのが商業建築設計のプランです。

高島屋やエルメスといったハイブランドの店は、お客様に「どんな価値を提供できるのか?」「どう満足してもらえるか?」「どうしたら新規顧客を獲得できるのか?」などといろいろなことを毎日懸命に考えているはずです。決して「商品さえ良ければそれで良いのだ」といったような楽観的な考えではないはずです。彼らは「建築の力」を信じています。その力を利用するために建築の事、凄く考えています。

茶の世界では、たった一杯のお茶を美味しく頂くという目的、ゴールのために、環境つくり、庭のあり方、建物の趣き、屋根の掛け方から柱の位置はもちろん、扉の高さ、畳の敷き方、など細かく建築の様式を規定しています。茶の世界もまた建築の在り方、「建築の力」を利用しているのです。

建築の目的、ゴールを建物の設計する前にはっきりと決める。 結果ではなく、思い付きでもなく、本当に叶えたいゴールへの美しい解答を求めてそれを建築にする。それこそが価値ある建築の最初の条件だと思うのです。