column 建築エッセイ

クリニックをエンターテイメントにする世界観1(健診センター)

健康診断などを行う健診センターが、今は健康である自分が会社から1日の余暇をもらい我が身の健康を確かめる場所だとしたら、心も一緒にリフレッシュできるリゾートが良いと思います。せっかくの機会なので1日中、ゆっくりしたほうが良いのです。

ここでは旅館に滞在するような気分で検査が受けられ、身も心も一緒にリフレッシュできることがゴールです。早く受診して早く治療が始まれば良いことはたくさんあります。

凛として粋な空間は心身にとって、緩みすぎずに安らぎと安定をともたらす、ちょうど良い空間なのです。日本にはもともと「襟を正した」文化があります。江戸時代の裃(かみしも)を着た役人などの出立は、効率的な発想からの服ではありません。

日本の剣道のスッと背筋を伸ばし微動だにしない構えは戦いの中、とても美しいものです。

真のリラックスは凛とした中にあると私は思います。

医療の場の外観もとても大事です。優しく寄り添う中にも襟を正した出立は、医療の姿勢や信頼
感を示し、利用者には安心感を与えることができます。

(写真20.「凛とした粋)健診センター1)

玄関ロビーを抜けて待合ラウンジに入ると、晴れやかな和の場が広がります。

2層分の吹き抜けスペースには個室の茶室やコーヒーラウンジ。丘のように2、3段上がった場所には、足湯ラウンジもあります。

そこから少し離れた一角にある読書コーナーでは根っからの仕事好きな人たちが満足そうに時折パチパチとパソコンのキーボードを叩く風景も見ることができます。

いろいろな場所があるので待合時間に何をやるかは自由です。

病気は早く見つけること。ときどきは、1日くらいゆっくり休んで、心と体に良いことをしながらリフレッシュする。そしてそれをきっかけに毎日を過ごす。これは「脳内革命」の著者、春山茂雄の医療に対する想いを建築に投影した世界観の一部です。


                            (写真21検診センターのラウンジ、足湯コーナーと喫茶室2)

少し余談です。

もう30年も前のことですが、私が春山先生と出会った当時、先生は医療のガイドラインを全面的には信頼してなかったように思います。「私がこの患者の親だったら、そうはしないから私はやらない」と言い切った言葉を幾度となく聞きました。

また、私が病に倒れた一週間後、近所の医者からは安静を言い渡されていましたが、どうしても飛行機で出張に行かなければならなくなり、春山先生の病院に向かい事情を説明して相談しました。すると、「どうしても辛くなったらこの薬を1錠だけ飲みなさい。・・・・・行っても大丈夫ですよ。あなたはその病気ではありません。」と言い切ったのです。そしてにっこりと微笑んで肩をそっと2回叩いてくれました。無事成果を上げ出張から帰ってくるまで、頂いた薬のことは忘れていたほどです。

医療のことは私にはよくわかりませんが、これが患者にとっての治療の本質ではないのでしょうか?。

夜間診療を普通診療の料金にしたり、病院があまりにも綺麗なので誤解されることも多かったのかもしれません。他の医師達や業界との衝突も多かったのでしょう。マスコミの対応も途中からすこぶる悪くなりました。『脳内革命1・2』という本が530万部を超える一大ベストセラーとなったために、「反春山」の声が次第に増えていったような気がしていました。

それまで病院には名だたる有名な建築家や建設業者たちが大勢関わっていました。それでも、まだ30歳になったばかりの駆け出しだった私に、その後のプロジェクトの全てを預け、心が折れそうな時には「頑張れ、頑張れ」と励ましていただいたことには感謝しかありません。

 これはそんな思い出いっぱいの「私の青春建築」の一つです。