column 建築エッセイ
魔法の鉛筆は建物ではなく外部空間から設計する「オープンリビングの家」
2024.03.04
私たちが建物を設計しようとするとき、まず考えを巡らせるのは外部空間です。これは、落水荘でいうところの滝や山や川のことです。身近な住宅でいえば庭や駐車場がこれにあたります。
実は建物が立っていないこの部分外部は建物が立っている部分と同じくらい多くの面積を占めていることが多いのです。
土地の面積に対する建築面積の割合は、法律で上限が決められています。住宅地域ならおおよそ土地に対して建物を建ててよい面積の割合、建ぺい率は40~60%というところでしょうか?
つまり半分くらいは外部空間なのです。
そのため設計は、大きな外部空間から先に思い巡らせます。
それはつまり、その建物に対しての「環境」をつくるということです。ふんだんに植木や花を植えることができればそれは良い環境ができるでしょうが、実際には、外部面積の多くは家と家の間の隙間だったり、カーポートだったりと制限も多いのです。しかし、建築家ならそこをなんとかステキな場所にするのが腕の見せ所なのです。
(写真14:オープンリビング)
シティホテルを思い浮かべて欲しいのですが、シティホテルにはフロントがあって、コーヒーが飲めるラウンジがあって、ピアノがあったりしますよね。
広い廊下の奥にはエレベーターがあり、上階に登ってエレベータを降りると、そこにはちょっとした広場があって調度品も時折眺めながら廊下を進んでやっと、自分の部屋に入っていきます。そこはそんなに大きな部屋では無いかもしれませんが、そこにたどり着くまでの環境、住宅でいうと外部の環境がもたらすリッチな余韻が「自信や安らぎのエネルギー」となって宿泊客を元気にします。
では、ビジネスホテルの場合はどうでしょうか?
部屋のひとつ、ひとつの大きさはシティホテルとそんなに大きな違いはありません。ただ、ホテルの玄関を入るとほどなく、こじんまりとしたフロントがあり、ロビーも廊下も通行の機能が満たされる範囲で設計されていて、ゆとりの空間はほとんどありません。部屋数を少しでも増やし、宿泊料をリーズナブルにというコンセプトですので環境がもたらすエネルギーもリーズナブルなのです。「仕事帰りに寝るだけだからここでいいや」という割り切りです。
ビジネスでの出張なら1日〜2日のことなので、まだそれでも良いのかも知れません。しかし我が家、わが街となるとどうでしょう?毎日、毎日365日、この先何十年もそうした環境のエネルギーの違いの中で暮らしていくことになります。
環境をどう創っていくか?それが建築には大事です。
道路側にある駐車場の奥のリビングに大きなガラス窓をつけたところで、窓を開けっぱなしにすることはできません。道路を通行する人から家の中が丸見えになるからです。
では、狭い敷地の場合どうやって開放感のある環境をつくれば良いのでしょうか?
探せば必ずどこかの方向に開かれた場所はあるものですが、それでもない場合は、たとえば「上の空間」空の利用です。
たとえ右も左も前も後ろも閉塞感がある土地だったとしても、上にはずーっと遮るものがない。上を向けば無限の空宇宙まで続く空が広がっています。
極少住宅などでときどき使われるライトコートは、天から光を取り入れるための中庭みたいな空間です。道路や隣からのプライバシーを守りながら、家の中からは開放的なプランにすることができます。
前章で「隣の家に配慮すると、あなたの建築の価値が上がる」という話をしましたが、建築は隣の家、周囲の家との在り方も含めて環境なのです。
隣の家の庭に植えられた大きなオリーブの樹々は我が家にとっての借景です。隣の家にとっては、我が家のバラの花や桜の木が環境になるのです。
良い環境をつくるためには、関係性を良好にしておくことも大切です。外で会った時には気持ちの良い挨拶をしたり、家の前の掃除をする時は少しだけ隣家まで掃いておいたりする。
隣と違えていては良い環境づくりはできません。そうやって私たちは、幸せになっていくのです。