column 建築エッセイ
設計事務所をどう探すか
2023.11.06
では、建築家なら、設計事務所なら誰でもどこでも良いかと言うと、もちろんそうではありません。音楽でもどんな音楽でも良い、レストランならどのシェフでも良いというわけにはいかないのと同じことです。
本当に実力のある建築家、設計事務所であるか?の判断は当然必要なことですね。
建築家の人生観や経験、つまり設計事務所としてのこれまでの実績などは大きな一つの判断材料です。新人がいきなり名建築をつくることもときにはあるでしょうが、建築家は人生の晩年に傑作が多いことも特徴です。
これまでのオーナーには大変申し訳ないのですが、人生と同じように建築でも時には失敗してしまうことがあります。私もこれまで、いつも建築に一生懸命だったとは思いますが、たくさんの失敗もしました。オーナには多大なご迷惑をかけてしまったことも過去には何度となくあります。もちろん一つ一つ丁寧に誠心誠意解決してきたつもりではありますが、結果として、そうした失敗の度に大きな教訓を積み重ねながら、長きに渡り少しずつ建築の道を進んできたように思います。
建築は壮大な叡智の結集で成り立つものです。そのためには、どうしてもある程度の経験や実績が必要です。また多くの人との共同作業ですので、人生経験に裏付けされた人間力が必要なことはどの仕事でも同じでしょう。そういうこともあって建築にはたくさんの経験が必要になってくるのです。
そうはいっても、まだ経験も少ない若手の建築家と感性が合って、その建築家に建築を依頼したいと思うケースもあると思います。
そんな時には、良い方法があります。大丈夫です。
それは若き建築家を理解する先輩建築家や良き建設業者とパートナーを組み、一緒に建築を進めていくことです。そうすることで経験や実績にとらわれない、全く新しいアイディアや建築が生まれるはずです。
また自分と相性が合う建築家なのかどうかはよくよく検討したいものです。シャネルやアルマーニなどどんなに有名ブランドのデザインであっても自分に合わないものは合わないのです。
自分に合った建築家、設計事務所探しは少しは手間がかかりますがご自身の建築にとって、必ず良い結果をもたらすはずです。恋愛と一緒です。一生懸命探してみてください。
大事なお買い物ですから。
テレビなどによく出てくる有名な建築家だけが良い建築をつくっているわけではありません。
またいざ、その先生に設計をお願いするにしても、すぐにはできないかもしれませんし、設計料が予想以上に高額かも知れません。それから実際、オーナご自身と相性が合うのかどうかもその時になってみないとよくわからないものです。
最近はテレビや雑誌に頼らずとも、ネット検索でもさまざまな建築家や設計事務所を探し出す事ができます。有名ではないかもしれませんが、近くにも遠くにも優秀な建築家はたくさんいます。知名度以上の実力を持った建築家も、実はたくさんいます。そういった人をきっと見つけられるはずです。
それでも住宅建築なら、まずは周りの知り合いのさらに知り合いなどの建築家の中に相性が合いそうな方がいないか探してみると良いでしょう。オーナーご自身の好みをまとめていく作業は建築家なら誰でもうまくできると思います。住宅建築において、作品の好みも大切なことですが、建築家の人柄も同じくらい重要なことなのです。なぜなら計画中、建築中、完成するまでには様々な問題が出てくるからです。知り合いならそんな時には勇敢に我が身として対処してくれるでしょう。
でも、なかなか知り合いのネットワークで探すことは難しいですよね。
しがらみが嫌だとおっしゃる方もいます。・・・・・ん!?なんだかわかります。
それなら人柄、会社の社風はネット検索でもある程度推測することができます。設計事務所のホームページをよく見て見ましょう。「建築の良さはよくわからない」という方も「ホームページのよさ、好み」ならなんとなくわかるはずです。
建築家はクリエーターです。ホームページの作り方、感性は建築の考え方そのものといえます。ホームページ作成業者主導で勝手に作られている、ということはまずないはずです。つまりその建築家のホームページとご自身の感性が合っているかどうかを感じてみれば良いのです。
「あっ、ここのホームページ好きだな」
「なんか嫌だな」
なんとなく感じますよね?
その感覚、おそらく間違っていないと思います。
建築の時にまずは設計事務所へ相談するという文化がないのは、建築家や設計事務所にも問題があります。建築家に頼もうと思っても、その姿や様子が見えないのです。今、多くの設計事務所は「事務所ビルの一角」や「住居に併設された仕事場」で、そう人目につくこともなく、営業を続けています。誰も設計事務所がどこにあるのか?わかるはずはないのです。わからないところに出かけていくには勇気がいりますよね。大きな買い物ですから、ホームページだけで紹介すればそれで良いというわけにはいきません。
もし、設計事務所がもっと身近で床屋やコンビニのように「街かど」にあれば、住宅など身近な建築の相談事の時でも、気軽に声をかけやすいのだろうと思います。さらに感性ある若き建築家をサポートする体制ができれば、たくさんの街かどに設計事務所ができていくことでしょう。そうすると建築をしようとするオーナーは、それなら最初に設計事務所に行こうか、建築家に話を聞いてみようか、という流れができていくはずです。
私事ですがそのような想いの中、私たちは「街かど設計」というブランドを新たに発足しました。
1号店は横浜市の鶴見の商店街の中の小さな小さな店舗ですが、23年の2月にスタートしました。今後、たくさんの建築家との出会い、いろんな方との出会いを通じて「街かど設計」はその名のとおり商店街など、各地の「街かど」にできていくのを私は夢見ています。建築の日々の問題に専門家として街の方々と一緒に正面から向き合っていくことが、建築家の使命でもあるのです。 オリンピックの競技場や、美術館や超高層ビルの設計は建築家なら誰もがやってみたい建物ですが、日本の文化としての景観をつくっている大きな要素は、実は、いま私たち日常利用する商店や住宅などの「建築の質と景観」なのです。