column 建築エッセイ
家づくりは展示場ではなく建築家へのメールから
2023.10.23
建築設計事務所をしていると、知り合いやそのまた知り合いから「我が家を建てるので相談に乗ってほしい」と言われることがあります。「設計してほしい」のではなく「相談だけしたい」というのも結構あります。
そのような相談の大概は、工務店やハウスメーカーからたくさんの提案を受け、その中で心に決めたプランがすでにある。しかし、いまいち欠点もあるから修正してチャチャッと一味加えてアップグレードしてほしいと言うのが希望です。チャチャッとサッサッサと線を何本か入れるだけにしてほしいのです。
余り余計なこともしてほしくはないのです。「これよりいい案はない」ともう決めてしまっているからです。
それでもやはり私たちは、そういった設計プランを見てしまうと気になってしまい、少しずつ線を入れていくことになります。するといつのまにかまるっきり違う案になってしまうことも時々あります。
せっかくなので出来上がったそのスケッチ図面を相談者に見せると大概は、
「えっこんなになるの?凄い!」
「初めから設計お願いできますか?」
ということになります。
なぜ、住宅に限らず建築の時、はじめから建築家、設計事務所に設計を依頼するという文化ができないのだろうか?といつも思うのです。
「なぜ設計事務所に最初に相談しないのか?」
興味があるので機会がある時に、いつも聞いてみるのです。
大体の答えはこんな声です。
- 工務店にもメーカーにも設計者はいるのだから同じことではないか?
- 設計事務所は少人数でやっているので何か問題があった時心配だ。それよりメーカーや規模の大きい工務店の方が安心だ。
- 自分の好きな家を建てたいが、設計事務所に頼むとこちらの要望を聞いてもらえず、しかも何かの実験台にされそうだ。
- ネットを見ても、どの設計事務所が良いのかわからない。
- 好きな建築家に頼むと設計料が高いだろうし、どうやって頼めば良いかもわからない。
- こちらの要望通り建てるのだから、誰が設計しても大した違いはない。設計料を払うくらいなら、キッチンやユニットバスの最新型にお金を掛けた方が良い。
- そもそも住宅って設計事務所は設計しないでしょう?
- 設計事務所は営業もしていないし無愛想で嫌だ。メーカーの営業は愛想良く、なんでも聞いてくれる。
- 設計料が別途かかるし建築家に頼むとさらに高い。総建築費がかさんでしまう。
- 最近はネットで何人かの設計士に案を出させ、気に入ったものをコンペできるシステムがある。わざわざ苦労して設計事務所を探す必要はない。
- 建築は設計だけでなく施工や監理も重要だから、一体的に責任を持つ工務店やハウスメーカーが安心だ。
- 建築家に一度声をかけてしまうと断りにくく、あとで面倒だ。
でも、
ごめんなさい、これ全部違います。
設計事務所の設計は工務店やメーカーと違い、どうやったらつくりやすいのか?楽なのか?どの材料を使いたいのか?など施工者やメーカーに気兼ねすることはありません。いつでも依頼主であるオーナーの味方です。オーナーの立場でたくさんの選択肢、自由なアイディアをいっぱい持っているのです。
どこの土地がよいのか?こんな夢実現可能か?どんな家が良いか?予算のこと、銀行のこと、施工業者の事、その後のメンテナンスのこと。家相や風水、宗教上の事や家族の事情などいろいろなこと、今度設計事務所の方に聞いてみてください。きっと良い解決策を教えてくれるはずです。
それから設計料を支払うとその分損だと言う考えも違います。設計料以上の価値があるから建築家が存在するのです。
建築家は、コストを下げる本質的なノウハウをたくさん持っています。安易に安い材料を使えば良いということではありません。また、オーナーの代わりに工務店に掛け合って予算を交渉したり、無理難題の工事を説得したりもします。行政と掛け合うことはしばしばです。とにかくお客様の建築の利益のために一生懸命なのです。
その代わり、設計事務所はハウスメーカーなどと比べたら宣伝が下手なのかもしれません。コミュニケーション能力も相当落ちるかもしれません。ホームページを見ても気取ってばかりでよくわからないことも多いのでしょう。
多くの方は「家をつくろう」と思った時、まずは住宅展示場に出かけるのではないでしょうか?ブラリと・・・・楽しいですよね。
それでもいいのです。はじめは。
それでも展示場巡りの次は必ず興味ある設計事務所にも連絡をしてみてください。
ホームページや雑誌などを見て、
「こういう考え方の人に設計してもらいたい」
「こんな家、いいな」
と思う建築家にアプローチをしてみてください。
「断られるのではないか?」と不安ですか?
どーってことありません。そんなこと。
今はメールという便利な道具があります。たとえ断られたって、傷つくことはありません。思い切って相談してみましょう。
実は建築家はそのメール待っているのです。
建築家は「建築愛」でいっぱいの人ばかりです。建築が好きで、好きで仕方ないものたちの集まりです。建築学科を卒業して公務員として建築に携わったり、大手ゼネコンに就職すればそれなりに安定して生活ができるのに、わざわざ建築設計のために、年中働くことを選んだ人たちです。趣味と職場が一緒になったような場所が、建築設計事務所なのです。しかも皆、学生の頃からデザインセンスに自信満々の強者ばかりです。
私も小さい頃からつくることやデザインすることが大好きでした。小学校の頃は、木曜日の図画工作の授業が月曜日の朝から、もう待ち遠しくて寝られないくらいでした。
当然、美的感覚には自信満々でしたが、設計事務所に実際に勤めてみると周りのみんなもすごかった。嫉妬するような才能の持ち主がウヨウヨとしていました。だから負けまいと頑張った。するとまたみんなも頑張る。
そうやって切磋琢磨している建築家が集まっているのが、私が知る設計事務所です。
もちろん建築は純粋な芸術ではありません。建築の竣工後はオーナーが毎日使うものです。人の好みというのも皆違います。使い勝手にも好き嫌いがあります。
もちろんオーナーの意見が最優先です。そこは建築家であれば皆わかっていますので、ご安心ください。
先ほどから、建築家という言葉が出てきていますが、建築設計士という図面をまとめ上げていく技術的な職業というイメージに対して、自分なりの建築に対する理念、本質へのこだわりを信じて、その実現に突き進む、いちいち凹まない。というプライドを加えて、この本ではそういった建築士のことを「建築家」と呼んでいます。
一生に一度の高価な買い物である住宅、大切な資産になる建築。
建築の設計のことは建築家、建築設計事務所へどうぞ!