column 建築エッセイ

エアコンの位置は? 「カッコ悪い」が「カッコいい」

いきなりエアコンの話ですが、建築の本質を理解する上でわかりやすいのでお話しします。

「リビングはおしゃれにしたいんです。エアコンは見えないよう天井埋め込みにしてスッキリさせてください。それから照明は間接照明がおしゃれですよね」

住宅建築の時、エアコンの埋め込みや間接照明について、オーナーからはこんな風によく要望されます。

天井埋め込み型のエアコンは商業施設や事務所ビルなどよく使われるシステムです。壁にエアコンがなく一見スッキリです。

でもそれって壁には取り付けていないので当たり前なのです。

(これは、あるクリニックの天井埋め込み型のエアコンを取り付けた写真です。)

(写真:7エアコンが天井についているクリニック)

その代わりに天井面にはエアコンの吸い込み口や吹き出し口などが大きく目立ってしまいます。これはこれで気にならないのかなぁ、とはいつも不思議です。

私は個人的には天井埋め込み型のエアコンが特別にカッコ良いとは思ったことはありません。

天井面のデザインは一見見過ごされがちですが、空間の広がりの印象を決めるいわば隠し味としての大切なポイントです。空間の中のわかりやすい部分だけを先に先にと、虫食いでデザインしていくと、本質的な価値ある美しさに近づくことはできません。

例えば、この写真ご覧になっていかがでしょうか?

(写真:8壁つけのエアコンのクリニック)

奥の壁に白い壁掛けエアコンをいきなりドンと取り付けてあります。ここはクリニックの待合スペースなのですが、空間の広がりは天井面をスッキリさせる方が効果的だと判断したため、埋め込み型のエアコンは使用せず壁掛け型のエアコンにしました。

カッコ悪いですか?この壁掛けエアコン?

もう10年前の写真ですから最近ではもっとスリムでカッコいいエアコンもたくさんあると思いますが。

埋め込み型のエアコンや間接照明がいつでもカッコいいというのは先入観だと思います。おしゃれな雑誌などで「今風な空間の写真」としてそれらを紹介しているのが原因かもしれませんが、空間の良し悪しはそんな小さなことでは決まりません。

夕食を楽しむダイニングなら、間接照明よりもおしゃれなペンダントライトやシャンデリアの方が良いことだってあります。

「スピーカーをつけるなら、某有名メーカーにしてほしい!」

と要望されるオーナーの多くは露出型のスピーカーを好みます。それは「カッコいい」からですよね?

ここでエアコンの話をしたのは、天井埋め込み型がカッコいい、悪いといった話をしたいわけではありません。

もっと本質的なことがあります。

それは「設備の寿命と建築本体の寿命が違う」ということです。

もともとエアコン等の設備の耐用年数は10年〜15年程度であるのに対し、建築建物本体は50年〜100年以上と、圧倒的に耐用年数が長いのです。

その上、エアコンや照明器具などは年々驚くほどの速さで進化していきます。一方、建築本体は大抵の場合、その対応についていけません。そのため、エアコンの故障や交換の度に大掛かりな工事が発生するなど、進化する設備の性能に建築本体が追いつけない事が起こります。

壁や天井の中に隠蔽された設備の配管などが寿命をむかえ、あちこちで漏水などが起こると、建物それ自体が相当なダメージを受けているという印象を受けてしまいます。すると、建築本体はまだまだ大丈夫だとしても、

「もう建て直しだ!」

「建物の寿命だ!」

という話になってしまう事があるのです。つまり、設備が建築の寿命を決定してしまうのです。

私は、設備を「カッコ悪いから」と言ってむやみに隠してしまうのはよくないと思っています。「見せる=カッコ悪い」と思われがちな設備周りですが、実は「見せる=カッコいい」そんな場合も意外と多いのです。

フランスのパリにあるポンピドゥセンターという建物は、世界的に有名なレンゾ・ピアノとリチャード・ロジャースの設計です。美術館や図書館などが入っているこの複合施設は、赤や青色に塗られた空調や水道、電気などの設備配管が、建築本体とは切り離されむき出しになっています。普段は隠れている設備を積極的に見せた名建築です。

芸術がテーマの美術館の建築で、設備配管が露出しているのです。「配管や電線カバーがカッコ悪い」といった先入観の先を行くデザイン。配管がむしろかっこいいのです。受け入れたパリっ子の美的感覚には脱帽です。

 (写真9.パリのポンピドゥー・センター(国立近代美術館)周辺)

*ネットで見つけた写真です

(青や赤で塗られたカラフルな配管のパリの、ダイナミックでエネルギー溢れ、まさにカッコいい)