column 建築エッセイ
設計料「無料」や「格安」は結局、得ではない
2023.10.30
もしも、工務店やハウスメーカーが設計・施工でつくった2500万円の住宅と、建築家が設計した2200万円のもっと楽しくてすごい家があったとしたら・・・・・・?当然、後者が良いに決まっていますよね。
コスト管理された良質な建築、それが「建築家の設計の力」なのです。
たとえ建設費の他に、設計・監理費が300万円や400万円かかったとしてもなお、お釣りが来ます。1章でも少し、触れましたが、なぜ設計・監理費を支払うと建築のトータルコストが下がるのか、もう少し詳しく説明します。
車の値段っていくらですか?と漠然と聞かれても答えようがありませんよね。
軽自動車なのか?トラックなのか?それともフェラーリーやベンツのような高級車なのか?
それともリーズナブルな中古車なのか?どんな車をどんなオプションをつけて買いたいのかディーラーの展示場でカタログや実物を見ながら1つ1つ確認しながら買いたい車と仕様を決めていくはずです。
車の購入とは違い建築の場合は、最初に大体の予算と家についての希望を建築家に伝え、その土地に合わせた設計図や完成予想図をまずはつくらなければなりません。少し時間がかかります。その代わり、設計図さえあればいろんな建設会社に同じ建築物についての価格、補償などについて問い合わせすることができます。たとえ同じ仕様の建築物であっても建設会社によっては建設費に1割や2割以上の価格差が出ることもそんなに稀なことではありません。設計料の数%の価格差など問題ではありません。同じ設計図があれば基本的にはどの建設会社が建てても同じものができます。安かろう悪かろうがなく、その会社の姿勢や、担当の人柄まで見て判断する事ができるのです。安心ですよね。
当たり前のことですが、建築には設計図は必ず必要なものです。誰かはその作業を必ずやらなければなりません。それがメーカーの設計部なのか、工務店の設計部なのか、設計事務所が直接行うのか、工務店の下請けとして設計事務所が行うのかのいずれかなのです。設計事務所のスタッフ、建築家の給料が特別高いという話も聞いた事がありません。
別立てで、明瞭に、設計監理費と請求されると「余計な費用」だと勘違いされているだけなのです。
実際はこれまでのどのオーナーも窓口こそ違えど、お支払い済みの費用なのです。
設計費とはその物件の設計について調べたり、考えたり実際に図面を描いたりする為に費やされた時間に対する対価です。建築価値を少しでも上げるために、メーカーや役所に相談や交渉をしまう。その情熱次第で当然結果は大きく違います。コスト削減のためには業界でつちかったコネも使い駆け引きを行う時間なども含まれます。そのほか、少しでも精度を上げるために、デザインする仲間や、アシスタント、構造事務所や電気や機械設備の設計事務所、省エネをチェックしてくれるす事務所などその道の専門家に協力をお願いします。
時間をかければかけるほど設計料は上がっていきますが、設計に時間をかければかけるほど建築の質は上がり、コストは下がっていくのです。
また監理費というのは工事中専門知識の少ないオーナーに代わり、その場その場で問題解決の矢面に立ち一番良い方法を考え、さらにはバージョンアップのチャンスも伺いながら監理をすすめていくために要する時間の対価です。これらは全て価値ある建築をつくるためには大変重要ことです。繰り返しですが、設計の時間を掛ければかけるほど良い建築が出来ます。
建築家はどうやってコストコントロールするのでしょうか?
例えば、ローコスト建築の場合でも良いものができるのでしょうか?
街かどにある、「街中華」
美味しいですよね。しかも安い。伊勢海老やキャビアなどの高級食材には目もくれず、絶妙なレシピだけでの勝負です。特別な材料は何も無く、調味料もいたって普通です。私たちが普段使っている塩や醤油、砂糖それらのコントロールだけで感動の味をつくっているのです。
建築のコストコントロールも同じです。建築家なら大理石や銘木など特別な材料は使わなくとも空間の配置とバランスだけで感動の空間をつくることができます。
ゴルフ用語で上がってなんぼという言葉がありますが、上がるのを待つまでもなく建築家主導の建築つくりは遥かにお得なのです。
もうおわかりいただけましたか?
建築家は美術館や名建築をつくることだけが生きがいではありません。
予算がない時でも意気投合したオーナーのためなら、建築家は建築魂に火がつき、予算がないからこその「感動設計」が生まれることも知ってもらいたいのです。
「設計料は高ければ高いほど良い建築ができる。」とは思いますが、自分が興味ある建築で、感動する建築をつくるためなら「手弁当でも良い」という建築家さえいるほどです。