column 建築エッセイ

「地震に強い家」の宣伝文句にいちいち感心しない

日本は海外に比べて災害の多い国です。住宅を建てる時には地震に強い建築を建てたいとは誰もが思うはずです。
宣伝で良く見かける耐震実験。大型の実験装置に住宅を乗せ震度6や7を人工的に発生させその住宅が必死に耐えている様子を見せられるのは圧巻です。
「このメーカーしかない!ここにしよう!」
「やっぱり地元の工務店や大工さんでは不安だ!」
耐震住宅の宣伝を見るとそう思うのも無理はありません。
そして、こう思う方もいらっしゃるでしょう。
「我が家をつくってもらおうとしている工務店はあんな実験なんかしていないよなぁ」と。その実験に参加していない建築家の設計や地元工務店がつくる住宅の耐震性は不安になってしまうのです。

でも、大丈夫です。

なぜなら今これから建てようとするあなたの住宅や建築は全て、我が日本国がつくった建築基準法で守られるからです。
第一、これからつくろうとするあなたの家は、たとえ先の実験をおこなった住宅メーカーにお願いするとしても、未来のあなたの家は、実験と同じ間取りや大きさの家ではありません。それに、実際に設計を進めていくと開放感が良いようにと窓はもう少し大きくしたくなるでしょうし、部屋の使い勝手やその後の改築の可能性を考えるとなるべく室内の壁も少なくしたくなるのでしょう。土地の形が違えば家族構成も違い、家の形も違う。いずれにせよ、あなたが建てようとする家と、実験で使われた家とは違うのです。

それにメーカー独自の工法やそれを実証する実験ももちろん立派ですが、我が国が国土交通省を中心に作り上げてきたガイドラインは信頼できるものです。
日本で建築されてきたあらゆる建物を長い間、地震だけじゃなく台風や水害など幾多の災害経験を経た経験を反映させながら、つくりあげられてきた建築基準法。一方の意見に偏ることなく、たくさんの意見が検討されたその結果がまとめられたものです。建築基準法は最低限の基準なのだとの意見もありますが、その割には時に首を傾げたくなるようなことまで細かく定められています。基準はどこかで線を引かなければならないものです。いろんなことをいろんな考えのもと導き出された、常にバージョンアップされ続けている「責任ある最低限という基準なのです」。
たとえば地震に対する基準について見てみましょう。

先の「平成28年熊本地震(以下:熊本地震)」は想定外の大きさでした。
たった3日間に震度7が2回、震度6が5回、その後3ヶ月を含めると震度5が12回、震度1に至っては1888回とこれでもかと言うほど繰り返しの地震でした。

その地震の影響について、国土交通省と国立建築研究所(1)が特に被害の大きかった益城町について報告をしています。 木造住宅に関する要点はおおよそ下記2点です。(2)

1   「新耐震基準の2000年基準」以降につくられた

建物の倒壊・損壊率は2,2%、7棟の倒壊・損壊を確認(*3)

2   その7棟の倒壊・損壊の原因は

敷地自体の崩壊が 1件
地盤の特性による局所的な大きな地震動の可能性 3件
施工不良が 3件

つまり建築の問題ではなく、「土地自体の問題での倒壊・損壊が4件」、あってはならない「工事不良での倒壊・損壊が3件」、を除けば「2000年以降の建築基準法」で建築された「木造の住宅に倒壊・損壊はなかった」ということになります。

「熊本の地震では1件も倒壊・損壊がなかった」という住宅メーカーの話を聞いたことがありますが、上記報告でもわかるように2000年以降の新基準で建てられた熊本の地元の工務店や大工さんがつくった住宅も倒壊・損壊はしてはいません。*・(*4)
私の熊本市内の実家も熊本地震では何度も震度6を被災しましたが、実家のすぐ隣の工務店につくってもらった在来工法の木造2階建はその後ももちろん、何の痕跡もなく未だ元気です。

「震度7にも耐えた家」といった宣伝はとてもインパクトがありますが、特別なことでも、そのメーカにしかできないことでもありません。地元の工務店や大工さんがつくる住宅でもオーダーひとつで、もっと、もっといくらでも強くすることもできます。(*5)

大きな会社がつくるからとか、誰かがつくるからとか何か特別に「強度が上がる」ということではありません。又ついでに付け加えると木造であろうと、鉄骨造であろうと鉄筋コンクリート造であろうと、どんな構造であろうとも同じ設計強度を目標値とすることができるので、その場合、簡単に言ってしまえば竣工後の理論的な強さはどの構造も同じです。
耐震性に優れていることは宣伝されていてもされていなくとも、必ず必要なことなので当たり前のことなのです。大手の住宅建設会社や住宅メーカーでなければ安心できないといったことはありません。

建築つくりの選択肢を広げ、建築家・地元の工務店や大工さんも信頼し、本質的な住宅つくりをするべきです。 

*  実際に被災された方には大変お気の毒で心中お察し致しますが、本稿は
最新の建築基準法についての限られた説明ですのでご容赦ください。

(*1) 国土交通省・国土技術政策総合研究所と国立研究開発法人建築研究所が合同で設置した「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」
本委員会は、国総研、建研、一般社団法人日 本建築学会等が実施した熊本地震における建築物被害調査内容を幅広く収集・ 整理するとともに、建築物被害の原因分析を行うことを目的として開催された第3回目。

(2)(調査対象地域の木造住宅は1955棟) (3) 1981年5月以前の旧耐震基準で建てられた木造住宅の倒壊・損壊率は29,7%と大きい。
(4)(2000年以降の建築で特殊要因を除く) (5) 現在の建築基準法では「震度6,7クラスの大きな地震があった場合、人命を守り倒壊はしないが大きな損傷を受けるのは仕方ない」という考えですが、さらにその後の生活も不自由なくできるような強さを確保するため国土交通省では今、建築基準法以外に耐震基準について住宅性能表示制度として、1等級から3等級まで、より強い構造の基準を定めて推奨しています。