column 建築エッセイ
もうひとつの住宅の建て方
2024.07.22
マイホームのつくり方には2つの方法があります。
自分の趣味嗜好で、隅々まで思い通りの家をつくる注文住宅。楽しいですよね、家づくり。
それこそが価値になります。建築家が強力に設計サポートします。
もう一つは自分の条件を伝えた後は建築家がプロとしての具体的な設計案を提案しながら進めていく方法。後々建築としての本当の価値、財産としての価値が判明していくことでしょう。
「そりゃぁ、建築家に頼めるもんだったら頼みたいよ」と言われる方も多いと思います。ただ、「建築家の渾身の設計案」を採用したいと思っても、巡り会えた建築家の設計監理料が、建築費の10%や15%と聞かされると、やはり二の足を踏んでしまう。それでも雑誌に出ているような建築家が設計した家に住んでみたい。という方々のために、私が今取り組み始めた新しいマイホームの建て方を最後にご紹介致します。
それは建築家が描いた、かっこよくて完璧な家の住宅の図面を安く買って近所の工務店さんに安くつくってもらうというやり方です。
それはふとした縁で気づいた設計のあり方なのです。
前述の通り、私は「葉山シャツ本店」白いシャツの開発に携わっていたことがあります。
その頃の葉山シャツ本店は、最高級の完全オーダーの仕立てシャツが自慢のメーカー。1着1着、お客様の体型に合わせ、仮縫いから本縫いまで丁寧に仕立てたシャツの着心地は格別で評判でした。
しかし4万円以上もするワイシャツ。本当は着てもらいたい働き盛りの若いビジネスマンには、そうそう手が届くものではありませんでした。
そこで私たちは、クオリティーの高い本物の白いシャツを、それまでのオーダー仕立てのシャツの半値以下で何とか提供できないものかと、皆で知恵を寄せ合い、「渾身の葉山本店の白いシャツシリーズ」の既製品をつくることにしたのです。「プレタポルテ」というものです。
有名な腕利きのデザイナーに協力を求め、一流の職人と最高級の布地を結集させました。サイズは全部でなんと21種類、これまでの葉山シャツ本店の顧客様のサイズを分析して、どんな体型の方にも対応できるよう「葉山スケール」なるものも開発しました。
その代わり既製品ですから、全てが自分好み、サイズというわけにはいきません。猫背の人はシャツの前に少し皺が出てしまうので、葉山シャツの既製品を着る時には胸を張る必要があります。お腹が出ている人にはお腹周りが少しきついと感じるので、ダイエットを誘うことになります。ちゃんとした姿勢で無いとしっくりこないので、このシャツを着ると自然と背筋が伸びたビジネススタイルになっていきます。すると自信がつくので何事もうまくいきます。服装は相手への敬意ですので、取引相手や同僚などの印象もきっと良くなるはずです。
オーダーシャツは完全にフィットしてパーフェクトだと思われがちですが、既製品を開発してみてわかったのです。プロがつくった、プロ好みの製品は意外に良い。というかすごく良いことがあとでわかる。「もし、自分に合うよい既製品に出会うことができたら、そのほうが絶対いいな」と。
オーダーシャツの場合の1着だけのために、有名なデザイナーにデザインしてもらうことはできませんし、自分の体型のままの快適なシャツは作れますが、シルエットも自分の体型のままの「それなり」なのです。
一方、既製品のシャツのラインは、個人の体型に合わせたものではなく理想の体型をデザイナーがかたどっているので、シルエットがとても綺麗です。凛とした姿を演出します。
また、規格品のコストコントロールは比較的簡単です。完全な理想形ができたなら、材料を計画的に仕入れて、工場の空きを見つけて工程通りにつくれば、価格は相当安くすることができるからです。大量につくって大量に販売しなければならないという必要もありません。「このシャツが良い」という人の分を予測するだけでコストは下がります。つまるところ、専門家が集結してつくった作品こそ、みんなに提供するべきではないか?そんな結論に至ったのです。
話を建築に戻しましょう。
私達の会社では今、建築家だけでつくりあげる「時間が経てば経つほど価値が上がる住宅」つくりに奮闘中です。
普段は別荘や富裕層の住宅などを設計しているトップデザイナー、照明や収納、キッチンや水回り専門のデザイナーなど、叡智を結集した渾身の住宅のプラン集を作成中です。極小住宅用から変形した土地まで、どんな土地にでも対応できるよう設計のバリエーションを増殖中です。またバージョンアップは永遠に続けていこうと思っています。
お客様は、車のカタログのようにただ語ろうから選ぶだけで最高の住宅を手に入れることができます。ワンルームから3L D K、4L D Kまで究極のプランがずらりと並んでいるのです。ポルシェのように完成された車は、誰も修正したくはないものです。また、車のカタログならポルシェだけでなくレクサスや日産、ホンダの車などたくさんの車種が揃っています。建築の場も様々な敷地の形状に対応可能なように敷地タイプ別のほか、多彩な作家シリーズを揃えたいと思っています。
これからは設計プランを買う時代になっていくのです。設計プランがあらかじめわかっていれば建設費もわかっていますので安心して選ぶことができるのです。
そして、それらの建築家の作品がずらりと並んだ街並みはすごく綺麗で楽しいはずです。
情報が増えすぎてきた時代の新しい住宅建築の1つの重要なあり方だと思っています。
建築家がつくる「建築の力」を実感してほしいのです。
そうです
「建築の力」ってすごいんです。